『お店やさん体験』 楽しい!で終わらせないひと工夫| 子どもと経済

日本では、幼児の頃から高校まで、様々な場面で「お店」遊びや模擬店などの機会がありますよね。
海外でも同じように、お店やさんごっこや模擬店、実際のお店体験は、子どもたちに人気のアクティビティの一つです。
私も子どもの頃、店員になったりお客さんになったりと、とっても楽しかったのを今でも覚えているし、わが子も、お店やさんごっこは、アメリカにある日本の幼稚園や小学校で体験させてもらいすごく楽しい思い出になったようです。
「楽しい体験」は大事なことで、それはそれで良いのですが、これを経済学習という観点から見てみると、やり方を間違えば実は問題点も出てくるんです。
今日は、その話をしたいと思います!

【お金の教育】「ありがとう」と「対価」のみを教えることのリスク
「偏り」や「限界」が生じる可能性
ここ数年で、子どもの金融教育の必要性への意識が高まり、書籍やインターネットでの情報も増えてきました。
日本では、お金のことを話すことは下品と捉えられる文化的風潮もまだある中で、それでも現実的には、子どもにお金のことで苦労して欲しくないという思いから、社会に出る前に、お金のことはしっかり学んでほしいと思っている親御さんは多いようです。
その中で、「ありがとう」と「お金」を結びつけるということなら、日本文化に合っていてやりやすい、という見方もあり、従来からあった「お店やさんごっこ」や「模擬店」を発展させて、より「お金の勉強」にフォーカスした内容にアレンジした子どもの金融教育を行うイベントも増えてきました。
日本では、お金の3つの役割を最初に教えようとすることが一般的です。
お金の3つの役割とは、「尺度」「交換」「保存」。
だから、お店体験で「尺度」と「交換」を教えようとするのです。そしてそれを「ありがとう」の気持ちと結びつけようとするのが一般的。
お店体験をして、「感謝」と「対価」の関係を教えることは、経済教育の最初の一歩としては素晴らしい入り口ですから、何も間違いではありません。
ですが、子どもの頃のお金のやりとり体験が、それだけで留まってしまうと、実は長期にわたって悪影響となる「偏り」や「限界」が生じてしまいます。
日本型お店やさん体験の特徴と問題点
特徴:
- 「ありがとう」と「お金」を結びつけることで、対価の概念を学ぶ。
- 店員役とお客さん役で、やりとりの体験ができる
- ごっこ遊びや真似(模擬)なので、やや「お金=交換=楽しい」印象に偏りやすい
問題点:
1. 感情だけが先行し、合理的判断力が育ちにくい
- 「ありがとう」と言えばいい、「もらったから返す」といった単純な情緒ベースの循環にとどまりやすい
- 価格設定や需要と供給、コストや時間の配分など、冷静な判断や優先順位づけの力が育たない
たとえば…
子どもが「これだけ頑張ったから〇〇円もらえるはず!」と主観的な価値観に偏り、相手のニーズや市場性を理解する機会を逃してしまう
2. 「やりがい搾取」や「無償奉仕の美化」に陥る可能性
- 「ありがとうさえもらえれば十分」と思い込むことで、自分の時間や労力を過小評価する癖がついてしまう
- ボランティアと搾取の違いや、価値の正当な見積もり方を知らないまま成長する危険性がある
3. 経済=人間関係 という本質を理解しきれない
- 感謝と対価の関係を「個人と個人」の間の一対一のやり取りで終わらせると、その背後にある構造(市場、選択、資源配分、影響関係)が見えないままになる
たとえば…
「買い物はありがとうの交換」とだけ学ぶと、企業や社会課題、税、国際経済など、「大きな経済」へのまなざしが育たなくなる
4. 「自分の価値」を測る物差しが育たない
- 感謝されるかどうか=自分の存在価値、と感じてしまうリスク
- それが得られなかったときに、他者軸で自己評価してしまう不安定さを抱えやすい
ここに書いたことは、小さい子どもの「ごっこ遊び」は別です。ごっこ遊びは、子どもが100%主導の「楽しい」体験を重視しましょう。
社会のこと、お金のことに興味関心を持ち始めたお子さん(5〜9歳ごろ・適齢期は子どものタイプによる)や10歳以上のお子さんにとっては、ありがとうや対価だけを学ぶ「お店体験ごっこ」で終わりにしてしまうことにはマイナスの面もあることを考慮し、親側はその先を念頭に置くことをおすすめします。
一歩先の経済教育に必要なこと
感謝や対価の体験の「次のステージ」として大切なのは:
価値の背景にある「構造」や「選択」の理解
- どうしてこのものはこの値段?
- 自分が選ぶことで、誰かにどんな影響がある?
- なぜある人は働いても貧しい?
→ 見えない経済の構造を可視化する教育
自分の「意思」で価値をつくる体験
- 商品の工夫、価格の工夫、相手のニーズを考える
- 自分の選択に意味や責任を持つ経験を積む
体験×内省(振り返り)=人間性に根付く
- ただ模擬店をやるのではなく、その体験が「自分と社会」「選ぶ力」「創る力」にどうつながったかを言語化する機会

次代に役立つ経済感覚を育むポイント
欧米の教育が全て良いわけではありませんが、金融経済リテラシーに関しては、日本の数十年先を行っていると言っても言い過ぎではありません。
そこで、欧米で育まれる経済感覚とはどういうものかを、長年学んできた私が、日本ルーツの親子に伝えたい『経済学習のあり方と実践方法』をご紹介しています。
欧米で育まれる経済感覚には、
「感謝と対価」からもう一歩踏み込んだ「価値創造と交渉、自己決定の責任」が強く根付いています。子どもたちが「価値をどうつくり、どう伝え、どう選ばれるか」を経験を通じて学びます。
お金は「感謝のしるし」や「対価」だけではなく、「自分の価値や自分が創り出したものの価値を他人に伝え、受け取ってもらった結果」でもあることを学ぶのです。
よく見聞きするレモネードスタンドやベイクセール(クッキーやマフィン販売)、夏休みのお小遣い稼ぎなどはその一例ですね。
ただし、欧米といっても一括りにはできず、サポートする親側の考え方や知識により、これらの活動の成果(子どもが得るもの)には、ばらつきがあるのが実情です。

まとめ
お金は「感謝のしるし」や「対価」だけではなく、「自分の価値を他人に伝え、受け取ってもらった結果」でもある
子どもたちに「価格設定」「違いを生み出す」「選ばれる努力」「数字での振り返り」といったリアルな体験を積ませることが、将来の生きた経済感覚を育てる
レモネードスタンドのような体験ができれば良いですが、住んでいるエリアの環境によっては難しいことがありますよね。そんな場合でも、レモネードスタンドのような大きなことをしなくても、家庭での対話次第で、感謝や対価から一歩踏み込んだお金の教育の実現が可能です。
そこで!夏の特別企画として、ここに書いた内容を実践しながら学べるミニワークショップを開催します!ワークショップでは、声かけの方法などを詳しく学ぶことができます。
この機会に、ぜひご参加ください!